防災住宅研究所

コラム

<コラム31>緊急避難指示で言う「安全な場所に避難してください」の「安全」とは?

平成30年7月豪雨広島市東区馬木

※トップの写真は平成30年7月豪雨広島市東区馬木

8月12日から降り始めた雨

8月14日、この原稿を書いている私は、広島市安佐南区の実家にいます。
安佐南区と言えば、2014年の広島土砂災害では死者77名のうち最も多くの被害者を出した区です。
その再現ともいえる状況がこのお盆期間中に続いています。
平成30年7月豪雨でも県内各地で土砂災害によって大切な人命を失っています。

平成30年7月豪雨 広島県安芸郡坂町水尻
平成30年7月豪雨 広島県安芸郡坂町水尻

8月12日から降り始めた雨は14日になっても止むすべを全く見せないでいます。
ほんとに「まだ降るのか」「いつまで降るのか」と言いたくなるほど降り続いています。
実家近くの祇園町山本では、累加雨量が526mmを越えようとしています
今朝から何度「キンコンカンコンキン」と携帯電話が大きな警報音を響かせ、警戒レベル5の「緊急安全確保」を伝えているでしょうか。
安佐南区の一部に発令されたという内容が送られてきています。

とは言え、なぜ避難をせずに原稿を書いているのか。
横着をして「自分は大丈夫だろう」と身勝手な判断をしているわけではありません。
この実家がある場所は山裾から500m以上も離れているだけでなく、近くに川もなく、洪水浸水想定区域図の想定最大規模を見てもちょうど洪水浸水エリアのギリギリ端辺りでなおかつ、1m強地盤を盛土してある地にあるため、避難しないでいます。
防災の専門家が避難指示に従わず、皆さんにご迷惑をお掛けしたのでは今後の仕事に影響してしまうため、安全をしっかり確保したうえでこの原稿を書きていることを書き加えておきたいと思います。

「安全」や「強い」という言葉の基準とは?

ところで地上波ではNHKを中心に各地の被害状況を放送しています。
しかし、その言葉の中で「?」が付く言葉があります。
今も現地からのリポートに
「命の危険が迫っています。ただちに命を守る行動を取ってください。命の安全の確保をお願いします」
と話し、締めくくっていましたが、この「安全」とはどういう場所を示しているのでしょうか?

私は常々講演などで話をしていますが「安全」や「強い」という言葉自体に基準がなく、非常に危ないということです。
この二つの言葉は個人差があり、同じ状況でもそれまでにインプットした情報によってAさんは「大丈夫」と思い、Bさんは「危ない」と思ってしまうのです。

例えばアナウンサーが「安全な頑丈な建物に避難してください」とよく言っていますが、「安全な建物」とはどんな建物でしょうか。
「木造住宅」でしょうか。「鉄骨系住宅」でしょうか。
木造系メーカーも鉄骨系メーカーも「災害に強い」と言って住宅を販売します。
その言葉を信じ「我が家は災害に強い!」と言って、避難をせず被災してしまうかもしれないのです。
非常に怖い。
私は多くの河川の氾濫現場や土砂災害現場に調査に行ってきましたが、河川の氾濫や土砂災害をまともに受けた木造住宅や鉄骨系住宅は、いとも簡単に流されてしまったり、損壊してしまっています。

「安全な建物」と言えるのは・・・

多くの現場を調査してきた私が「安全な建物」と言えるのは、「新耐震基準以降の鉄筋コンクリート造の住宅」です。
7月月初に発生した熱海市土石流の中でも流されず残っていたのは「鉄筋コンクリート造の建物」だけでした。

熱海市土石流で流されず残った鉄筋コンクリート造の建物
熱海市土石流で流されず残った鉄筋コンクリート造の建物

識者の方は「頑丈な建物に避難して命の安全を確保してください」と言われ、鉄筋コンクリート造の避難所等に避難されています。
であるならば、木造住宅や鉄骨系住宅に住むのではなく、最初から「安全な建物」である鉄筋コンクリート造の建物に住むべきではないかと思うのです。
日本は世界でもトップの災害大国です。
その自覚をし、垂直避難が可能な住宅に住むことが家族の命をあらゆる災害から守る最も大事なことだと思うのですが、間違っているでしょうか・・・。

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