防災住宅研究所

被災地調査報告

線状降水帯によって各地で土砂災害が発生!

(写真はもっとも大きな土石流が発生し、10数棟の住宅が流された広島市安佐南区八木3丁目)

【概況】

広島地方気象台の発表によると、日本海の前線に南から湿った空気が流れ込み、局地的に雨雲が発達。広島市安佐北区可部町で、20日午前3時50分までの1時間雨量が130ミリを記録。同区三入(みいり)町でも20日午前1時半からの3時間雨量が観測史上最多の217.5ミリに達した。同気象台は午前3時50分ごろ、大雨警報を超える「県記録的短時間大雨情報」を発表したが、その発表を前後して、安佐南区や安佐北区で土砂崩れや土石流が発生し、多くの住宅を飲み込んだ。

【被害状況】22日7時発表

死者 行方不明 重傷者 軽傷者
39名 52名 13名 11名
全壊 半壊 一部損壊 床上浸水 床板浸水
17軒 31軒 34軒 57軒 131軒

※広島県の土砂災害危険個所は全国1

都道府県別土砂災害危険箇所

県名 土石流危険渓流等 注1) 地すべり危険箇所注2
合計
(I~III)
鳥取 1,626 880 87 2,593 94
島根 3,041 4,517 562 8,120 264
岡山 3,019 3,027 395 6,441 198
広島 5,607 3,519 838 9,964 80
山口 2,655 3,506 1,371 7,532 285
県名 急傾斜地崩壊危険箇所等 注3)
合計
(I~III)
鳥取 1,530 1,634 317 3,481
島根 2,874 9,868 1,170 13,912
岡山 2,475 2,652 233 5,360
広島 6,410 12,848 2,685 21,943
山口 3,865 9,559 1,007 14,431
県名 土砂災害危険箇所等注4)
合計
(I)
合計
(I~II)
合計
(I~III)
鳥取 3,250 5,764 6,168
島根 6,179 20,564 22,296
岡山 5,692 11,371 11,999
広島 12,097 28,464 31,987
山口 6,805 19,870 22,248

注1)平成14年度公表。「I」:人家5戸以上等の渓流、「II」:人家1~4戸の渓流、「III」:人家はないが今後新規の住宅立地等が見込まれる渓流。
注2)平成10年度公表。
注3)平成14年度公表。「I」:人家5戸以上等の箇所、「II」:人家1~4戸の箇所、「III」:人家はないが今後新規の住宅立地等が見込まれる箇所
注4)土砂災害危険箇所等とは土石流危険渓流等、地すべり危険箇所、急傾斜地崩壊危険箇所等の総称。
合計(I)は土石流危険渓流I、地すべり危険箇所、急傾斜地崩壊危険箇所Iの総和。
合計(I~II)は土石流危険渓流I~II、地すべり危険箇所、急傾斜地崩壊危険箇所I~IIの総和。
合計(I~III)は土石流危険渓流I~III、地すべり危険箇所、急傾斜地崩壊危険箇所I~IIIの総和。

※広島の山地は水を含むと崩れやすい「まさ土」

広島県が全国で最も土砂災害危険地域が多いのは、広島県の山地が「広島花崗岩」と呼ばれる岩石からできており、これが長い間、雨や風にさらされると砂のような「まさ土」に変化し、水を含むととても崩れやすくなる性質を持っている。この「まさ土」が斜面の表面を覆っているため、土石流や崖崩れが広島県は起こりやすくなっている。

◆視察日 2014年8月21日午後1時~

◆視察場所

広島市安佐南区八木3丁目(もっとも大きな土石流が発生し、10数棟の住宅が流された)

直径2メートルの巨石が襲ってきた
直径2以上の巨石が襲ってきた
土砂によって多くの住宅が原型を失った
土砂によって多くの住宅が原型を失った

「まさか、この地域に土砂災害が発生するなんて」

8月20日未明に発生した広島市安佐南区、安佐北区で発生した土石流、土砂崩れによって、広島市ではかつて経験したことのない規模の大規模土砂災害に見舞われることとなった。

もともと広島市の成り立ちは太田川の河川域に広がった扇状地。平野が少なく、住宅地に適した地の少ない土地ゆえに、昭和40年代以降の高度成長期に近郊の山々を削り、その山裾に住宅団地を切り開いていった。山々の中腹まで寄生した昆虫が張り付くように住宅が張り付くさまは、広島の風物詩であったかもしれない。

私もこの地で10歳のころより30歳までの20年間を過ごした。その間、1993年の台風19号によって壊滅的な打撃を受けたほかは、大きな災害に見舞われることはなかった。土砂災害に限れば、1999年6月に広島市と呉市で31名が亡くなっているが、どちらかというと市の北部で、今回のように都市部近郊で発生したことはなかった。それ故に、広島市住民のショックは大きいものがあった。

最も被害の大きい安佐南区八木の災害現場に足を踏み入れた。道路が冠水し、山々から流されてきた土砂が道路を覆い、坂道を山水が流れ落ちてくる。乾いた地では、土埃が風に舞いあがる。マスクをしていないと、鼻孔が痛い。土砂が穿り返されたことで、土中にいた微生物が日光に当たり死骸となり、糞尿に近い匂いが散漫する。木々が千切れ、皮がむかれた匂い、土の匂い、いろんな匂いが混じり合う。車が大破し原型を窺うことができない。

土砂に押しつぶされた自動車

それは、住宅も同様だ。原型はない。

原型のない住宅
原型のない住宅

 最も被害の大きい地区、八木3丁目の土石流後に立つ。この地にあったはずの十数棟の家々の形跡が全くない。両側に半壊した家が並んでいるが、土砂に覆われた地には2m以上の巨石が横たわり、まだ何人もの命がその下で眠っているかもしれないことに思いを馳せると居たたまれなくなってくる。私の足のその下に、住宅とともに流され、土砂に覆われた状態でいるのかもしれないのだ。

コンクリート・パネル住宅を発見。2m近い土砂を受け止め、躯体構造に破損個所は見られなかった!

土砂を食い止めるコンクリート・パネル住宅

最大の土石流が襲った八木3丁目で、1階部分が土砂に覆われたコンクリート・パネル住宅を発見した。位階部分は窓を土砂が突き破り、部屋の中も土砂に埋まっていたが、躯体構造自体に破損個所は見られない。巨大地震等にも強く、以前からこの工法には注目してきたが、これだけの土砂が襲ったにもかかわらず、原型に変化がないのには驚かされる。下部の木造住宅を救ったのではと思われる。もし、木造住宅だったら、これほどの土砂が襲ったら、無傷とはいかなかったはずである。生憎、住人は不在で話を聞くことはできなかったが、2階部分に避難していれば、命を守ることはできたはずである。また、復興後、内装のやり替えは必要と思われるが、躯体構造をそのまま使用し住めるのではないか。復旧後に再度訪れてみたいものである。

災害に対し、もっともリスキーな時間は寝ている時だ。今回の災害も未明に発生している。日本人の平均在宅時間は、1日13時間を男女ともどの世代もほぼ超えている。すなわち、家にいて災害に遭う確率が非常に高いといえる。であるのに、あまりにも住宅選びで「災害」に無頓着すぎないか。住宅選び一つで、災害から守れる命があることを知ってほしい。

今回も多くの命が災害によって失われました。心からご冥福をお祈りするとともに、「命を守る」住宅の普及を願ってやまない。

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